2007-04-16 12:57:39
テーマ:旅行記
『奥様は如何されているのですか?』
ついに聞いてしまった! いや私ではなく私の愚妻なのだが。
ついに又一線超えてしまいやがった! 私だって聞きたくて、聞きたくて先程からウズウズしていた事を家内はいともすんなりと素直に、何の粘性もない語調で!
彼のオーラがそう質問させたのか、彼女は本当の愚妻なのか?
彼は私の逡巡なぞ一向に意に解する様子も無く、カラカラと笑う。
「離婚したわさ!! 僕だけ旅に出て、家内に引き続き会社をやってもらう方法もあったんだけど、僕だけ好き勝手に遊んでいて、家内に日常の苦労を強いるのは一寸ばかしマズイんではないかと思ったし。」
「一緒に旅に出れば、俺は南だ。私は北よ。てなトラブルが起こることは目に見えているしな!!::::::::::::::やはりそうなるに違いねーと思って!!!」
「俺はオートバイだけでいいんで、好きなことをやらせてくれって::::::家も財産も全部おまえに呉れてやるからってさ:::::別れてくれって:::::」
「家内は承知して呉れた:::::::::::::::」
「長男が千葉にいるんでそこへ行ったよ::::::::」
彼の回顧の弁に不思議と湿り気が感じられない。逆に聞いている我々の受け答えの声が段々と低調になる。彼は時々目線を外して遠くを見るような仕草をする。先程から私はその澄んだ目の奥に秘める寂寥感を探し続けている。しかしそれを微塵も感じ取れないことに一種の苛立ちを覚えつつあった。
海から吹き上げる風はたっぷりと湿気を含み、体が冷え切ってくる。
それにしても何もねー島だ。ここは。森を切り払って一面の牧草地だけが波打つ。
道路はどこまでも不自然なほど綺麗に整備され、快適なドライブを楽しめる。
でも何もねー。この島の神さんはとっくの昔に人間の所業に愛想を尽かし、逃げ出したに違いない。屋久島でも西表でも、島に降り立った時、島の霊気が全身に染み込み、頭の先から指の先まであらゆる場所から邪気が蒸散してゆくのを感じたのに。
整備されればされるほど荒涼感を増してきた展望台。その一隅に出現した3人を包み込む春爛漫の妖気。私は完全にこの妖気に支配尽くされている。
もうこうなったら最後の核心まで聞くのが礼儀だと思えてくる。
一体何が彼に55年の人生を一度清算させて、旅へと誘ったのか。
『一体旅に出ようと思われた直接の機会、決断されたキッカケは何だったんですか』
一瞬遠くの波頭に目をやった後、足元を見つめながら、彼は語り始めた。
「高校時代から親しかった友人がくも膜下出血で死んだんよ。彼女は手広く事業を展開している社長だったんだが、朝元気で家を出て、会社で午前中の会議をしている最中に突然の出来事だったみたいなんだ。 【何か:::!!命なんてのは?】って考えたのが、始めといえば:::::キッカケかもしれんなー:::::」
こう話したと時、彼の声は初めて湿り気を帯び、彼の眼が茫洋とした無常観を宿したと記憶している。一瞬ではあったが、彼の目に寂しさの陰影が瞬いたのではと、記憶している。
我々は最後までお互い名のることも無く、左右に分かれて展望台を後にした。
次の目的地に向かう車の中、家内が語りかける。
『彼は10年って言ったよね。後7年旅を続けるんだ』
『でも嫌いになって奥さんと別れたんではないんだから、』
『旅から帰ったら、又 一緒に暮らすんではないのかしら』
『でも10年は長いぜ』
『10年の空白って埋められないんじゃないか』
家内とそんな会話を交わしながら、私は全く別な想念の中にいた。
男は所詮 【見果てぬ夢追い人なのかもしれない】
【青い鳥は隣に居る。それを充分に了解しつつも、雲の向こうに別な、もっと輝く自分が、あるいは泰然自若とした自分がいるような気がしてならない】
コメント一覧
ひきつけられるように読んでしまいました。フィリピンの離れ小島に住んでおられる仙人様の書かれた書物よりずっと面白い!奥様は本当に愚妻なのか良妻なのか?次回はひとつそのところを詳しくお願いいしたいものです。
ご無沙汰です。木村は元気でやっています。下の息子がヨット競技でインターハイまで上りつめ、親ばかな(馬鹿な親?)金魚のフンのごとくつきまとい全身真っ黒状態です。カオハガンの時よりもです。
わけあって引っ越しました。では!
投稿者 : 木村 眞哉 | 2007-09-03 16:17:26