2009-01-08 12:15:54
テーマ:動物病院の四季

「ネコシャン」がやってきたのは季節を先取りした氷雨が降る初秋の夕暮れであった。当時、生後一ヶぐらい。白黒模様の典型的な日本在来の雑種雌猫である。
あの日、道端の側溝で泣いているのを中学生が拾ってきた。長時間雨に打たれたことによる低体温症と栄養失調、おまけに車にはねられたのか左肩が剥離骨折、左前足の感覚はない。
「院長、この子を助けても誰も貰ってくれんですよ」副院長の小谷がそっと私に告げる。
開院以来、病院の玄関先に捨てられた離乳前の子猫は数限りない。仕方なく当院の看護師が2ヶ月令まで育て、里子に出してきた。時には持参金まで付けて。
猫好きの患者さんはもとより、親戚、後輩に至るまで今や猫は飽和状態となり、もう押し込む隙間もない。
「あの中学生の家族は猫嫌いで、家にはつれて帰れないそうよ」受付の家内が告げに来た。
「こいつが助かったとして 問題はその後だ。左手は使い物にならん。障害が残る。障害持った猫をこれからずーと飼って行くことになる。入院ケージが又居候で占領されのるか」誰に語るでもなく呟く私を見詰めるスタッフの表情も途方にくれている。
「兎に角 こいつに運があるのか、やってみよう。皮下と腹腔内点滴の用意だ」私はスタッフに指示を出した。
そして「ネコシャン」は驚異的な生命力で回復し、「厄介者」から家族に昇格した。一番大きな入院ケージを占領し、皆からもらったおもちゃに埋もれて生活している。休診時間は3本足で診察室を駆け巡り、時々私の仕事の邪魔をする。
今「ネコシャン」が私の肘を盛んに舐めている。
「ネコシャン くすぐったい 止めろ」でも彼女は止めない。
「あ! そうか まだ糞が付いてるわ」
今日は豚の予防接種だった。シャワーを急いで、肘に洗い残しの糞塊が付いている。
ネコシャンは汚れと一緒に私の疲れも舐め取っている。
