2009-01-29 15:42:08
テーマ:動物病院の四季

チワワのロンちゃんは17歳。かつては米茄子と割り箸で作った野菜の動物模型にそっくりな体形であった。田辺の爺さんが戸棚も冷蔵庫も一杯になる程おやつを買い込み、与えた成果である。
それが今やっと、カルテに書き切れない生活習慣病を得て、チワワらしい体形を回復した。あとわずかな余命を自分がチワワであることを主張しつつ終ろうとしている。
老人性心臓弁膜症、これはもう7年も前から。白内障、腎機能不全、これは5年前から。最近になり関節炎、痴呆症が加わった。
昼間はほとんど寝ている。夜遅く、家族が寝る時間になると部屋を歩き回り、壁に向ってほえる。時々タンスの隙間に入り込み、出られない。
『バックが出来なくなるのは犬の痴呆症の典型的な症状の一つ』と内科学の本に書いてあった。
渡辺の田辺の爺さん、もうとっくに80歳を超えた。いつもロンの薬を取りに来る娘さんが『爺ちゃんの認知症がだいぶ進行して来た』と言っていた。
夕飯を食べてトイレから帰ったとたんに『晩飯は何時なんや』と聞くと言う。婆ちゃんはもう何年も前に老人福祉施設に行き、娘夫婦と息子夫婦が交代でジイちゃんの面倒をみている。
「一度ロンを連れてきて。春の定期健診なんや。爺ちゃんの顔も見たいし、僕からロンには塩辛い食べ物はやらんよう言ってみるから」
そしたら一番忙しい金曜日の夜、ジイちゃんが突然現れた。
「先生、いつもありがとう。お陰でロンも長生きして・・すんませんな・・」
腰が伸びている。足腰もしっかりして、血色も良い。
「爺ちゃん元気そうだな。具合はどう? ロンもまずまずみたいだけど・・」
私は他の患者を放り出して、爺ちゃんの相手をする。
私は爺ちゃんのしっかりした受け答えが嬉しくて塩分の話なぞ忘れている。
「先生と話す時は全くまともなのよねぇ。よう分からん」娘さんが肩をすくめて帰った。
私はただただニコニコしている。
