2009-06-10 12:52:11
テーマ:動物病院の四季

今年の冬最初の木枯らしが電線を鳴らしている。私の背中で燃えている暖炉の火が心地よい。
20年前家を新築する折、あちこちの予算を削り暖炉を作った。薪の確保に四苦八苦しながらも、幸い今日も暖炉は燃えている。
『火に当たりにおいで下さい』
遠くの友人をこんな言葉で誘いたかった。
『ご馳走するからお訪ね下さい』
ではない。
訪れたヒトを先ずは囲炉裏端の一等席に誘い、火に当たってもらう。昔見た映画の一シーンに憧れてきた。何故か、そんなもてなし方に人どうしの根源的な労りを感じてきた。
青い炎の樫、静かだが力強い炎のミズナラ、かすかな芳香を放しつつ燃える山桜。お互いに何も語らず、只黙って炎を眺めていても、その沈黙は暖かい。炎はヒトの気持ちを優しくする。
今、我が家のお嬢様が私の踵をまくらに眠っている。
シーズー犬、メス、5歳のチャコちゃん。右足に伝わってくる彼女のいびきの振動の心地よさに私はしびれた右足を座り直しもせず、じっと耐えている。傍らで家内が何時ものごとく就眠前の夜寝をしている。先程本を開いて座ったと思ったら、もう寝ている。
淡々とした性格のチャコちゃんは決して私のご機嫌を伺うようなことはしない。おもちゃを持ってきて『遊べ』と催促することも、『抱っこ!抱っこ』と私の手をカリカリすることもない。気分が乗れば今夜みたいに私のそばに来る。でも私が病気をしたり、気分を落ち込ませている時は必ず来てくれる。
『私が風邪で寝込んだとき、この子(犬)が看病してくれたんです』
そんな話を飼い主さんから何度も聞いた事がある。人をいたわる犬がいることの静かな感動。
チャコちゃんはお尻でわずかに私に触れるか、足を枕に眠る。私はチャコちゃんのこのさり気なさをたまらなく気に入っている。テレビは消してある。薪の弾ける音と、暖炉の煙突を振るわせる木枯らし、そしてチャコちゃんと家内のいびき。
藤沢周平の時代小説を手に、古酒を舐めながら私の晩秋が更けてゆく。
